見出し画像

フェライト研究 ー東工大の三大発明

加藤与五郎・武井武によるフェライト研究

フェライトとは、酸化鉄を主成分とする磁性材料で、戦前から戦後にかけてスピーカーやモーターの磁石、磁気テープやコンピューターの磁気ディスクなどに使われ、現在でもテレビやパソコン、携帯電話、ハイブリッドカーや風力発電など、電気・電子機器の小型・薄型・高機能化、省エネ・省資源化にも大きく寄与し、現代エレクトロニクス社会を根底から支えています。

フェライトは、1930(昭和5)年に東工大の加藤与五郎教授(1872-1967)と武井武助教授(1899-1992)によって発見され、さらに本学の卒業生が中心となって工業化されました。

1929年、武井は加藤の指導のもと、亜鉛フェライトの研究に着手します。当初の研究目的は、亜鉛の湿式冶金の副産物として生成する亜鉛フェライトを除去することでした。研究は基礎的な究明から始められ、各種のフェライト試料を合成し化学的性質や磁気特性を測定したところ、化学組成と磁性との間に2つの興味深い性質が確認されました。

1つ目はコバルトフェライトにおける磁場中冷却効果で、これは試料を磁場中で高温から冷却すると室温付近で磁場を除いた後も冷却中にかけた磁場の方向に磁化し易くなる現象です。2つ目は、銅亜鉛系フェライトが弱い磁場によって強い磁束密度を生じる性質(軟磁性)をもつことです。

このように、磁性材料は磁化された状態を長く保つ磁石材料(ハード材料)と磁束の通路として用いられる磁心材料(ソフト材料)に分けられますが、武井研究室では、ハードフェライトとソフトフェライトの開発につながる性質が相次いで発見されました。

ハードフェライトの開発

武井は、1930年から磁場中冷却効果を利用した磁石を作る研究を開始し、コバルトフェライトを主体とした試料について、組成の吟味、焼成や磁化の方法などを改良する実験を行いました。また、1932年から三菱電機株式会社との間で、磁石の性能向上、製造方法改善、用途の開拓について共同研究が行われました。

フェライトは、素材となる酸化物の形状が粉であるために固形にして焼成しても脆くて壊れやすい欠点がありましたが、これが改善されるとともに、磁力を強める方法も発見されるなど、研究によって性能が大幅に向上しました。この特殊磁石は「大岡山パーマネントマグネット」と「オキシサイドパウダー」(酸化物の粉体)の頭文字をとって、「OP磁石」と名付けられ、1933年に学会発表、1935年に三菱電機の芝浦工場で生産を開始しました。

この工場では、砂鉄選鉱機などの応用製品が開発されたため、三菱電機は1940年に新工場を大船に建設して、爆破用磁石、大型砂鉄選鉱機などを量産しました。OP磁石は、戦後も性能が向上し、小型発電機などにも使われましたが、原料のコバルトの高騰、バリウムフェライトの出現などにより、現在は生産されていません。

ソフトフェライトの開発

一方、ソフトフェライトは1935年に特許登録されますが、その開発は苦労の多いものでした。高周波電気工業がまだ発達していなかった当時は用途開発の実験すら困難であり、将来これがどのように発展するのか誰にも予想できませんでした。

こうした状況の中、1934年に富士電機製造株式会社がソフトフェライトに注目し、高周波ブリッジなどを用いた本格的な実験が行われ、さらに実業家の斉藤憲三も工業化を目指して、1935年に東京電気化学工業(TDK株式会社)を設立しました。

東京電気化学工業は、鐘淵紡績株式会社社長の津田信吾から援助を受けるとともに、加藤・武井研究室の協力を得て、1937年に蒲田に工場を建設し、生産を開始します。技術指導には、当時、武井研究室の助手であった山崎貞一(後のTDK社長)があたるなど、東工大と二人三脚で工業化を実現しました。

ソフトフェライトは、戦中期に無線のアンテナコアとして需要を拡大し、戦後は、ラジオの受信方式が、スーパーヘテロダイン方式に変わったことで、需要が急速に伸びました。1950年代以降は、トランジスタラジオの出現やカラーテレビの普及にともない、その生産量は爆発的に増大しました。

磁気記録体の開発

磁石は一度強い磁場の中に置かれると、磁場を取り除いた後も加えた磁場を記憶しています。この性質を利用したのが磁気記録です。磁気テープや磁気ディスクなどの磁気記録媒体は、武井武の研究グループの一員であった星野やすしらにより日本ではじめて本格的な研究が始められました。

星野は、1932年にフェライトの円盤を使って磁気記録の研究を行い、1948年には、わが国最初の塗布型磁気テープを作製し、音声を記録しました。これは、マグネタイト粉末を硝酸セルロースのバインダーに分散し、上質紙に塗布したもので、星野は当時作製したテープを使って、和田小六本学新制大学初代学長の講演を収録しました。その後、ガンマ酸化鉄磁性微粒子を使うと記録特性が著しく向上することを見いだし、1951年に第8回電気化学協会大会で発表しました。

磁気テープの開発が一段落すると、星野は視聴覚情報の伝達に磁気記録を利用する研究を始めました。印刷物の裏面を磁気記録媒体とし、表に書かれた内容を声で説明する装置(シートレコーダ)の開発に1954年から着手し、1957年に完成させました。これはシンクロリーダーと名付けられ、1958年にブリュッセルで開催された万国博の日本館で展示されると、プレス報道部門の金賞を獲得しました。

シートレコーダを開発する過程で、録音済みシートを大量に複製する接触磁気転写法が考案されました。また、マスターシート用の磁性体として、コバルトフェライト、バリウムフェライトなどの高保磁力材料が採用され、めっき膜などの金属磁性薄膜の検討も行われました。これらの研究は、現在の高密度磁気記録材料開発の先駆といえます。



最後までお読みいただき、ありがとうございます。 他の記事も、ぜひご覧ください!

最後までお読みいただきありがとうございました!
東京工業大学博物館(東京・大岡山)のnoteです。ここでは、展示品の解説や、刊行物などの情報を共有していきます。