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光イオン化・レーザー光化学の研究 ー田中郁三

田中郁三(1926-2015)は、1950年代、質量分析のイオン源に電子衝撃の代わりに真空紫外部の光を用いる光イオン化質量分析法と呼ばれる新しい方法を世界で初めて考案し、そこから真空紫外光化学という新領域を開拓しました。

全ての物質は分子からなり、分子はプラス電荷をもつ原子核と、マイナス電荷の電子から構成されています。この分子(M)にイオン化ポテンシャル(IP:各分子に固有な物理量)より大きな光エネルギー(hv)を与えると、分子に固有の光イオン化効率(n)で光イオン化が起こり、分子から電子1個を放出させることで陽イオン(M+)ができます。

電子衝撃法ではイオン化の際に、様々な断片イオンが生成されてしまうのに対し、光イオン化法は元の中性分子と同じ質量数のイオンを選択的に作り出すことが可能なため、この陽イオン(M+)の質量数を質量分析計で正確に決定することができます。分子の光イオン化は、イオン化に用いた光の波長に固有な特性を示すので、スペクトルから未知分子(M)が特定できます。この方法は、個々の化学種を選択的かつ精密にイオン化することを可能とし、現代のイオン・分子反応論の基礎を築きました。

田中が、1950年代に考案した光イオン化質量分析法は、光と分子の詳細な相互作用メカニズムに基づいた解析法でした。田中は、世界でも大変早い時期に化学の研究にレーザーを導入し、化学反応研究におけるエネルギー分解能及び時間分解能を著しく向上させるなど、光化学分野の発展に貢献しました。また、光化学協会を創設し、日本化学会会長に就任するなど、研究体制構築の面からも学問の発展に寄与しました。2005年には文化功労者として顕彰されています。


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