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展示解説

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東京工業大学博物館に展示中の収蔵品の解説を集めました。
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#機械

ロボット学事始めとロボコン ― 森政弘

森政弘(1927年三重県生まれ)は、1969年に東京大学生産技術研究所から本学制御工学科に教授として着任しました。 東大生産技術研究所時代の1967年に、研究室内で創造性開発のために「自分が乗って階段をのぼることができる機械」というテーマのアイデアコンテストを企画しました。その時優勝したのは、当時大学院生であった村上公克(まさかつ)君のアイデアです。展示されている6足歩行ロボットは、そのアイデア実現の予備実験として試作された模型で、どこでも歩くことができる機械―Genera

理論と実践を噛み合わせた歯車研究 —中田考

概要中田孝(1908(明治41)年~2000(平成12)年、東京浅草生まれ)は、1928年東京高等工業学校機械科を卒業、翌年4月、新設の東京工業大学機械工学科に第一回生として入学。卒業後は、母校の助手、助教授(精密工学研究所員)、教授、精密工学研究所長を2回勤めました。 中田は、豊かな独創力に加えて、物理的問題や応用数学等に強い興味を持ち、外国文献も積極的に調査しました。1929(昭和4)年頃、歯車運転試験のため水晶のピエゾ効果を使ったトルク計を自作。その試験の理論解析に独

生物の動きに発想を得たロボットの開発 —広瀬茂男

概要広瀬茂男(1947年東京都生まれ)は、1971年、横浜国立大学工学部を卒業し、東京工業大学大学院の梅谷陽二研究室に進学しました。広瀬は、東工大の修士学生として研究を始めたとき、「ヘビは足が無いのになぜ前に進めるのか」を解明することに決めました。 まず初めに、ヘビの運動を文献で調査し、仮説を立て、蛇行運動の基礎運動方程式を誘導しました。そして実際の動きを調べるため、渋谷のヘビ料理屋でシマヘビを買い、ヘビの体に電極を刺して蛇行の形や筋肉の活動の様子を実験しました。その結果、

高速テープ力織機

この力織機は、精紡機のスピンドル(糸に撚り(より)をかけ、巻き取るボビンの軸のこと)を高速回転させるための動力伝達用テープベルトを製造するためのものです。 本来は本機と同様の部分が5個一組になって一つの鋳鉄製台座に取り付けられていましたが、保存用としてそのうち一個分を分離し、新たに動力部分と台座を設けたものです。巾の狭いテープを織る織機であることから、よこ糸の巻き形状、よこ糸を入れる機構、よこ糸をたて糸に押し込む機構(「おさ」の運動機構)に通常の力織機(例えば、N型織機、ド

大型毛織機ドブクロス

ドブクロスとは、イギリスの地名で、そこで作られた毛織機の呼称です。19世紀後半から1960年代後半まで生産されていましたが、大戦後の技術改革に追われ急速に失われました。最近では高級服地の生産用として細々と生き残ってます。本機は、イギリス Hutchinson & Hollingworth 社製で、関東大震災後の政府の復興援助資金で輸入され、1924(大正13)年に本学に設置されたものです。 当時の最新機の一つであり、織物組織を司る「綜絖(そうこう)枠」(15枚まで可能)のた

フラットカード(梳綿機)

フラットカードは、綿紡績工程の中のカーディング工程を受け持つ機械です。カーディングとは、綿塊を細長い「しの状」の製品(スライバ)に加工することです。カーディング工程の後、錬条工程で多数のスライバを一本に引きそろえて引き伸ばす操作を繰り返して太さのむらを少なくし、同時に繊維を平行に引きそろえる操作を経て、精紡工程の最終製品である綿糸が出来上がります。 展示されているフラットカードは、世界一流の繊維機械メーカとして長い歴史をもっていたイギリス Platt Brothers 社が

ミニチュア・リング精紡機

展示されている精紡機は、イギリスのPlatt社がShirley Miniature Spinning Plant として教育用に製作したミニチュアプラント(紡織機)の一部で、他にカード機(梳綿機)と錬条機からなり、スライバないし粗糸を供給して糸をつむぐ機械です。文部省から1968(昭和43)年に全国の繊維工学科を持つ国立大学に特別交付され、学生実験に広く用いられました。 「機械遺産」その他の解説はこちら フラットカード(梳綿機) 豊和工業N型織機 高速テープ力織機

豊和工業N型織機

N型織機は、豊田式織機株式会社(現豊和工業株式会社)が1917(大正6)年頃に製作した国産の代表的な普通綿織機で、国内に普及するとともに海外にも輸出されました。 展示品は1961(昭和36)年に購入されたものですが、1935(昭和10)年にはすでに同種の織機が紡織学科に設置されていたという記録があり、旧機の更新を目的として導入されたと推定されます。 「機械遺産」その他の解説はこちら フラットカード(梳綿機) ミニチュア・リング精紡機 高速テープ力織機 大型毛織機ド

スターリング・エンジン

スターリング・エンジンは、1816年、蒸気機関が盛んに使われていた時代に、スコットランドのロバート・スターリング(1790-1867)によって発明された外燃機関のエンジンです。このエンジンでは、シリンダー内の空気を加熱・冷却することによって、空気が膨張と収縮を繰り返し、ピストンを動かします。ガソリンエンジンなど内燃機関の発達により、忘れられた存在になったエンジンですが、次のような特徴から静かで安全なエコエンジンとして再注目されています。 1. 静かな動作:内燃機関はシリン

パーソンズ・タービン

1884(明治17)年、イギリスのチャールズ・A・パーソンズ(1854-1931)は、世界初の蒸気タービンを発明し特許を取得しました。 蒸気タービンは、長い間、多くの発明家達の注意を引いており、1880(明治13)年までに100件ほど特許が登録されてはいましたが、満足な機械を製作するのに役立ったものはなかったといわれます。 パーソンズは、当時もっとも緊急な技術的要求の一つが発電機に直結して駆動する機関の開発にあったことから、在来の直接軸の周囲に取り付けた羽根に蒸気を吹き当

東工大にあったツェッペリン飛行船のギアボックス

解説 本減速機(ギヤボックス)は,第一次大戦の戦時賠償として1920年に日本に引き渡されたLZ75註)ツェッペリン(Zeppelin)飛行船のものではないかと言われています.本学精密工学研究所歯車工学部門に古くから置かれており,研究室のメンバーにはツェッペリンのプロペラ駆動用ギヤボックスと言い伝えられていました. 当該飛行船は1916年11月に初飛行後,偵察,爆撃などの作戦行動を行い,1917年12月に退役しました.終戦(1918年11月11日)後の1920年に戦時賠償と